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日食・黒点・ISSの太陽面通過 太陽の安全な撮影方法

太陽を撮影されたことはありますか? 風景写真に太陽を入れ込むことはよくありますが、今回は太陽のクローズアップを撮影するためのお話です。

太陽のクローズアップを撮影するというと、代表的なものに日食があります。2009年に奄美硫黄島での皆既日食、2012年南日本での金環日食などをご覧になった方も多いのではないでしょうか。最近では2019年12月、2020年6月に部分日食もありました。しかし太陽の観察は危険が伴います。2012年の金環日食の際には全国で1000人もの方が目に異常を訴えたそうで、最悪の場合は日食網膜症という視力障害を引き起こしてしまいます。そこで今回は、安全に太陽を撮影できる方法を考察します。この方法はその他にも惑星や国際宇宙ステーションISS)の太陽面通過といったイベントや、黒点の撮影などにも応用できますので、是非チャレンジしてみてください。

太陽のクローズアップでいつ何が撮れるのか

日食
まず日食ですが、実は日本ではしばらく見ることができません。2023年4月20日小笠原諸島や沖縄、九州南部でわずかにかける部分日食がありますが、本格的なのは2030年6月1日に北海道で見られる金環日食です。そして2032年11月3日の部分日食を経てやってくるのが2035年9月2日の皆既日食です。能登半島から茨城県にかけての地域で見ることができますが、まだまだ先ですね。

惑星の太陽面通過
地球の内側を回る水星と金星は、見かけ上太陽の表面を通過することがあります。この現象を日面通過、もしくは太陽面通過といいます。金星の太陽面通過は122年、8年、105年、8年という周期で起きていて、次回は2117年12月10日・・・まあ、諦めましょう。
水星の太陽面通過は平均して7~8年に一度の確率で起きます。次回は2032年11月13日。これも結構先ですね。

黒点
黒点は周囲より温度の低く黒く見える部分で、太陽の自転に合わせて移動しています。大きなものは夕日の時などに肉眼で見えることもあるそうです。黒点数には周期性があり、多い時には100個以上もの黒点がありますが、最近はとても数が少なく、0個の時もしばらく続きました。7月中旬になってようやくいくつか見られるようになりましたが、黒点の数は太陽の活性度の指標になるとも言われているだけに、最近の気候変動と合わせて見ると興味深いところです。

ISSの太陽面通過
日本のきぼうがドッキングしている国際宇宙ステーションISS(International Space Station)。宵の空や明け方にマイナス等級で動いている様子をご覧になった方もいらっしゃると思いますが、実はこのISSが太陽の前を横切る様子を撮影することができます。シルエットになるので形もはっきり分かります。いつどこで見ることができるかは
International Space Station Transit Finder(Java必須)というWebページや「ISS通過予測」というAndroid版のアプリで調べることができます。
play.google.com

使い方は簡単で、場所を指定してやれば1ヶ月先までのその周辺で見られる日時を秒単位で計算してくれます。意外とチャンスは多いですね。ただISSの起動はずれるので、撮影予定日直前にもう一度計算し直すといいでしょう。

2020年8月4日ISS太陽面通過の動画です。
youtu.be


フィルターはNDで大丈夫か?

太陽を撮影する上で一番大切なのは減光フィルターの選択です。太陽の明るさは-26.8等星。-12.7等星の満月のおよそ40万倍以上の明るさですので、当然減光フィルターを装着しなくてはなりません。減光フィルターというとNDフィルターが真っ先に思い浮かぶと思いますが、もう一つ有力な選択技として金属蒸着フィルターというものがあります。いずれのフィルターも必ず撮影レンズの前面に装着してください。後面や途中に挟むと、熱で破損して重大な事故を起こしてしまいます。

NDフィルター
もっとも一般的な減光フィルターですが、太陽撮影には最低でもND10000、通常はND100000のフィルターが必要になります。下にISO100の時のシャッター速度の目安を表にしたので、参考にしてください。

NDの種類 絞り 通常の太陽 食分50% 食分90%
ND10000 f8 不可 不可 1/2000
f16 1/5000 1/2500 1/500
ND100000 f8 1/2000 1/1000 1/200
f16 1/500 1/250 1/50

しかしNDフィルターはあくまで撮影専用であり、減光はすれど目に有害な赤外線などはカットしないので、ピント合わせなどを行う時は絶対に光学ファインダーを使ってはいけません。ライブビューやEVF、もしくはパソコンをつないでテザー撮影をしてください。超望遠レンズなど口径の大きなレンズを使用する場合は、かなり大きなフィルターを入手する必要があります。

Kenko NDフィルター 82mm PRO ND100000 日食撮影用 182499

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  • 発売日: 2012/03/24
  • メディア: エレクトロニクス

金属蒸着フィルター
薄いフィルムに金属を蒸着させて太陽光の強度を99.999%削減するフィルターで、ドイツBaader Planetarium社のAstroSolar Safety Film という製品やアメリThousand Oaks Optical社の製品が代表的です。特徴はなんといっても眼視観測にも使えるというところ。シート状で販売されているので、適当に枠を工作して貼り付ければ望遠鏡や双眼鏡に装着して太陽を観察することもできますし、光学ファインダーでピント合わせをすることもできます。もし太陽を観測・撮影する機会が何回かあるなら、持っておいて損はないでしょう。万が一小さな穴でも空いていると大変なので、使用前にフィルターを装着した状態で周辺を撮影して、真っ暗であることを確認することをおすすめします。ちなみにAstroSolar Safety Film 使用時のシャッター速度はND100000とほぼ同じです。

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AstroSolar Safety Film を工作用紙を使って望遠鏡とファンダーに装着したところ

アップで撮影するには望遠鏡が必要か?

太陽の見かけの大きさは、実はかなり小さいです。天体の大きさを見た目の大きさを表す単位に視直径または角直径と呼ばれる単位がありますが、太陽の視直径は1度のおよそ半分の32'(分)。これは5円玉を手に持って腕を目一杯に伸ばして持った時の穴の大きさとほぼ同じといえば、その大きさが実感できるのではないでしょうか。つまり太陽を画面いっぱいに撮影しようと思ったら、フルサイズで2000mm、APS-Cで1200mm、マイクロフォーサーズで1000mm程度の超望遠レンズが必要になります。なかなか現実的ではない焦点距離ですが、テレコンバーターを併用すればいいでしょう。

SIGMA テレコンバーター TC-2001 キヤノン用 870546

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  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: エレクトロニクス


もっとお手軽なのが、Nikonが出しているレンズ一体型の超望遠カメラCOOLPIX950。光学83倍ズームで、フルサイズ2000mm相当。ほぼ画面いっぱいに撮影することができますし、4K動画も撮影することができます。P1000なら光学125倍ズームで3000mm相当。共に手ぶれ補正が強烈なので、スチール撮影なら手持ちでも可能です。ただ、純正ソフトであるNikon Camera Control Pro 2 によるテザー撮影には残念ながら対応していないのが惜しいところです。


望遠鏡を使えば拡大撮影やコリメート撮影といった方法で合成焦点距離を引き延ばすことも容易ですし、回析現象による解像度の低下も減らせます。熱問題などを考慮すると、あまり大きな望遠鏡よりも口径6cm~8cm程度の屈折望遠鏡が一番扱いやすいです。日本製ではビクセン、タカハシ(高橋製作所)などが人気です。


また、太陽の出すHα波を観察するための太陽望遠鏡というものがありますが、これを使えば太陽のプロミネンスなども撮影することができます。

ピント合わせは黒点

では実際に撮影してみましょう。超望遠のピント合わせはとても厳密ですので、安全面も考慮するとライブビューで拡大するかテザー撮影でパソコンの画面に映し出してマニュアルで合わせるのが確実です。黒点で合わせるのが一番分かりやすいですが、黒点がなければ太陽のフチを使って合わせます。一度ピントを合わせたらズレないように、ピントリングをテーピングしてしまうのもおすすめです。動画のシャッター速度は一般的にフレームレートの2倍で割った数値程度が良いとされていて、30pなら1/60になりますが、そんなことは言っていられないので、ここは中心部が白トビしないように速めてしまいましょう。

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テザー撮影で黒点を利用してパソコンの画面でフォーカスを合わせるのがおすすめ

あると便利な赤道儀

太陽を超望遠で撮影していると、日周運動による動きが結構早いことが分かります。これを自動追尾するには赤道儀という機材を使用しますが、ある程度重さのある超望遠レンズを乗せることができる赤道儀はより大型で高額になってくるので、撮影の目的によっては普通の三脚で十分です。ただ、風や振動などの影響を減らすためにも、できるだけしっかりした三脚をオススメします。またシャッターボタンやRecボタンを直接押すと手ブレが入るので、リモコンの使用やテザー撮影をするといいでしょう。

太陽の撮影まとめ

最後におすすめの撮影方法をまとめまると、

金属蒸着フィルター装着で超望遠レンズ、望遠鏡、もしくはNikonの超望遠カメラを使ってテザー撮影orライブビュー撮影

という感じですね。くれぐれも安全には気をつけてチャレンジしてみてください。

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